
未来のトンネルを
支える!
営業と工場が連携した
新しい止水材

現場の小さな気づきが
新たな商品を生み出し、
世界へ広がる
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H.T.
建築資材・シビル企画統括部
インフラ海外営業グループ
1986年入社
プロジェクトの立案者で営業を担当 -
Y. M.
建築資材・シビル企画統括部
インフラ海外営業グループ長
2014年入社
プロジェクトでは全体のマネジメントを担当 -
J. F.
建築資材・シビル企画統括部
インフラ海外営業グループ
2017年入社
技術開発を担当 -
T.S.
栃木工場 技術グループ
2013年入社
工場での生産を担当
▼ 左からT.S.、J. F.、H.T.、Y. M.


地中には無数の水脈があり、地中にトンネルを掘り進めると必ず水が流れ出す。
あふれ出る水を放置すると、トンネルの中が水浸しになり、大規模な事故につながってしまう。こうした事態を防ぐために用いられるのが、「Hydrotite AD type」だ。吸水性樹脂と合成ゴムを特殊製法で加熱成形した止水材で、シールドトンネルに使用されるセグメントに貼り付けることで水を止めることができる。国内にとどまらず海外でも採用されており、交通・都市インフラに欠かせない、世界のインフラを支える製品である。
このハイドロタイトの“貼り付け方”に工夫を加えたのが、2024年3月に完成した「Hydrotite AD type」だ。
通常のハイドロタイトは職人が現場で一つひとつ接着剤を塗って貼り付けていくのだが、手作業に頼っているため職人によって貼り付けの品質に差が出てしまうことが問題だった。特に海外の新興国では技術力が高くなく顕著な問題である。そこでタキロンシーアイグループでは接着剤を使わなくても貼り付けられるHydrotite AD typeを開発した。職人ごとの技能に左右されず、誰でも簡単に貼り付けが可能できるようになったのだ。
この製品が生み出された背景、そしてその製品化までの道のりを追っていく。
Part.1
始まりは現場での
小さな気づきだった
「Hydrotite AD type」誕生のきっかけはコロナ禍にある。当社では、製品の品質を担保するために、社員が現場まで赴いて施工の技術指導を行っている。メーカーが綿密に技術指導するのは、他社にはあまりなく、当社ならではの特徴だ。しかし、コロナ禍に突入すると、ロックダウンの影響で海外に行くことが困難に。そこで、ハイドロタイトの営業を担当していたH.T.とJ. F.は、現地で指導する代わりにオンラインで施工の方法を伝えることにした。しかし、これがなかなかうまくいかない。ハイドロタイトをしっかり接着するためには、接着剤を均等に塗る必要があるのだが、オンラインだとこの工程の細かいノウハウを正確に伝えるのが難しかったのだ。
ある現場では、貼り付け時に不具合が出るとの報告が相次いでしまった。何度かオンラインで施工指導を行うも、施工品質はなかなか改善されなかった。ようやくロックダウンも解除されH.T.とJ. F.が現地まで確認しに行くと、ハイドロタイトが剥がれ落ちている箇所がいくつもあった。
その日のことをチーム内で共有し次の対策を練る会議で、H.T.はこう話した。
「製品にあらかじめ接着剤を塗っておけば、誰が作業しても同じ品質を保てる上に、接着剤を塗る手間も省けて工事がスムーズになると思うんですよね」。
事前に接着剤を塗って納品する。グループ長のY. M.は、今までにない価値を提供できるアイデアを気に入り、後日実際に開発してみないかとチームに呼びかけた。その背景には、当社が海外展開に力を入れていることもある。近年アジア圏でのインフラ工事が増加しており、作業者にかかわらず品質を保てる製品は海外でも売りやすいと踏んだのだ。
当時のことをH.T.はこう振り返る。「会議の時は現場で気づいたことをただ話しただけで、まさか本当に開発が始まるとは思ってもみませんでした。ただ、海外で実際に現場を見ていたので、絶対に売れるという確信はありましたね」。
事業部長に相談すると、ぜひ開発を進めてほしいとゴーサインをもらう。現場の気づきをきっかけにHydrotite AD typeの開発が始まったのだ。
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①
①ハイドロタイト製造過程
Part.2
「異例中の異例」となった
開発スケジュール
当社の開発は3段階のフェーズがある。まず、本当に利益が出せそうか確認する市場調査や設計に取り組む第1フェーズ。次に、実際にその製品を作れるのか試作する第2フェーズ。最後に、工場で大量生産できるのかを試す第3フェーズ。この3つのフェーズそれぞれにチェックポイントが設けられており、それを突破しなければ製品として売られることはないのだ。通常の開発では順調に進んだとしても3つのフェーズをクリアするのに1年はかかる。
しかし、このプロジェクトは、この3フェーズを前例のないような短期間で行う必要があった。Y. M.はその理由をこう話す。「刻一刻と海外での開発は進んでいきます。工事が進むにつれ、求められる技術も変わっていくので、新製品は思いついたタイミングですぐに出さなければ売れなくなってしまうのです。海外での展開を考えると、何としても年度末には製品を出す必要がありました」。
今回のプロジェクトの期限は半年弱。2023年の10月に開発をスタートし、製品を翌年の3月末に売り始める必要があったのだ。開発には、「異例中の異例」のスピード感が求められた。
だが、期限内に終えられる勝算もあった。タキロンシーアイが扱う別の製品で事前に粘着剤を塗っているものがあり、この技術を応用すれば今回の開発もなんとか間に合うかもしれない。この目算にかけて、プロジェクトはスタートしたのである。
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②
②施工イメージ
Part.3
開発の「攻め」と「守り」
全ての工程を急いで進める必要があったものの、品質も保たなければならない。いくら現場に必要な機能を盛り込もうとしても、製品の質が悪ければ意味がないからだ。
お客様に販売する立場の営業からすれば、製品には少しでも多くの機能を盛り込みたい。その一方で、実際に製造する立場の工場は、品質を担保できない機能を製品に付与することはできない。営業と製造は、いわば開発の「攻め」と「守り」なのだ。
今回のプロジェクトでいえば、全体の進行をJ. F.が管理し、営業のH.T.が「攻め」を担った。そして、「守り」を務めたのが栃木工場のT.S.である。
工場は、品質を担保することが至上命題だ。どんなにいいアイデアでも実現できてこそである。どんな現場でも問題なく使用できる製品にするために、T.S.は抜かりなく製品をチェックした。
例えば、工事の現場では埃が舞っていることが多い。接着面に埃が付いていると、スマートフォンの保護フィルムと同様にうまく貼り付かず、剥がれ落ちてしまう危険が高まるのだ。Hydrotite AD typeがどの程度の埃ならば問題なく使用できるのか、埃が多い時はどのくらいまで接着するコンクリート側を拭けばいいのか、大量生産しても接着力が落ちないか。こうした基準を一つひとつ確認し、安全に問題なく使用できるかを検証した。
「当社の製品は、生活の軸にあるインフラを支えるものです。製品に欠陥があると、命にかかわる事故につながることもあります。だからこそ、出荷する全ての製品の品質を確認する工場は、開発で非常に重要になるんです」(T.S.)。
「攻め」も必要だが、「守り」が欠ければ安全性が損なわれる。
重要なのは、「攻め」と「守り」のバランスだ。今回の開発でこのバランサーを担ったのが入社7年目のJ. F.である。ベテランのH.T.とともに海外の現場を訪れながら現地のニーズを探りつつ、工場側でできることをヒアリングし、製品の具体的な落とし所を探った。
「営業として売れると思ったアイデアでも、製造の段階で問題が出たらお客様に売れません。海外の現場と工場を行ったり来たりしながら、具体的な形を探っていきました。試作品をフィリピン、マニラの現場で試して、うまくいった時はすごく嬉しかったですね」(J. F.)。
「攻め」と「守り」の役割を意識しつつ、全員で協力し合う。この連携があったから、短納期の開発は順調に進んだ。ある検証試験が自社の工場で行えずプロジェクトが行き詰まりそうになった時は、J. F.が別の案件で知り合ったメーカー企業に協力を依頼することで素早く対応。全員で一致団結し、開発のフェーズを次々にクリアしていった。
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③
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④
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⑤
③無機溶剤・無臭で、環境負荷および人体への影響なく施工が可能
④上:従来品断面、下:Hydrotite AD type断面
⑤均一な施工品質の確保と作業工数削減を実現

Epilogue.
“団結力”で開発は無事完了。
今後は世界への展開を狙う
メンバー全員がそれぞれの能力を最大限発揮し、互いに連携し合う。この“団結力”で、「異例中の異例」の短納期の開発は無事に完了した。
完成したHydrotite AD typeはシール材に粘着剤を施しているため、人の手による接着剤の貼り付けを不要とすることで、安定した施工品質を実現できる。また、1個あたり数十秒を要していた接着剤の貼り付け工程が省略されたため、施工スピードの大幅な向上も期待できる。加えてHydrotite AD typeに使用されている粘着剤は無機溶剤かつ無臭なため、作業現場の安全性も向上させるなど施工現場において多方面にわたる大きなインパクトを与えるものとなった。
現在は、引き続き営業に力を入れつつ、製品の改良に取り組むことで、世界の各国へとHydrotite AD typeを広げることを目指している。
H.T.は、タキロンシーアイの仕事の魅力についてこう語る。「生活を支えるインフラの開発に貢献できることが当社の最大の魅力だと思っています。タキロンシーアイの技術を世界に届けるために、これからも頑張ります」(H.T.)。
現場の気づきが新たな製品の企画を生み出し、団結力をもってそれをスピーディに形にしたこのプロジェクトは、当社の海外展開の新たな道をつくるだろう。今後もチームの挑戦は続く。